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2015年10月10日 [法律]

校則違反と退学処分(1)

校則違反と退学処分(1)
1 校則違反による退学処分
生徒が校則に違反した場合に退学処分までに至るというのは相当な場合だろうと予想するのが通常かもしれない
 が、ここで紹介する裁判例はわずか1回の喫煙で退学処分となった事案である。
しかもその生徒は普段よりひどい素行不良があったと言うわけでもなく、卒業まであと約2ヶ月という時期にた
 だ1度喫煙したと言うことで退学処分を命じられた事案である。
この単純化された要約だけを聞くと、その学校の処分は生徒に厳しすぎひどい学校だと感じてしまうのが通常
 の感覚かもしれないが、事案の経過を検討してみると、こういう厳しい対応もやむを得ない面の事情も垣間見える
 のである。その裁判例を詳細にご紹介しましょう。
2 平成7年1月27日/大阪地方裁判所/判決
(一)この高校の本件事件前の状況等
(1)この学校は近畿地方の私立高校(以下「被告高校」という)であり、退学処分を命じられた生徒は被告高
    校の普通科の3年生(当時)であった。ところでこの被告高校では、昭和六〇年四月一日から施行された生
    徒指導規程に次のような規定があり、喫煙した生徒に対しては、謹慎・停学とすると定められていた。
第一二条 次にあげる行為、またはこれに類する行為をした生徒は謹慎・停学とする。
 1.万引 2.窃盗 3.喫煙 4.飲酒 5.不純異性交遊 6.家出 7.パーマ・脱色・染
        色 8.交通違反(自動車・原付自転車) 9.運転免許不正取得 10.不正乗車・定期券の不
        正使用 11.暴力行為 12.薬物乱用(ボンド・シンナー吸引など) 13 その他
(2)ところが、被告高校が全クラス男女共学に移行した平成二年四月ころから、喫煙する生徒が増加し、校庭
    やトイレに大量の煙草の吸殻が捨てられ、授業中落ちつきがなくなり、体調が悪いと言って授業を抜け出
    す生徒が続出するなど集団教育    秩序が著しく損なわれた。また、地域住民や保護者からは、被告
    高校に対し、被告高校の生徒が駅の待合室や喫茶店等で喫煙している旨の通報・苦情が毎日のように寄せ
    られた。同年四月から一一月末までの間に喫煙の疑いのあった生徒は三〇名を超え、喫煙が発覚して謹慎
    等の処分を受けた生徒は一五名に及んだ。
(3)これに対し、被告高校では、喫煙が発覚した生徒に対しては、未成年者が喫煙することは法律に違反する
    こと、人格形成途上にある高校生にとって、喫煙は心身共に大きな害を及ぼすこと、喫煙によって勉学が
    疎かになること、喫煙は他の生徒に害を与え、ひいては被告高校の集団教育秩序を乱すことになること等
    を十分に教育指導し、保護者の協力の下に謹慎・停学の措置をとり、他の生徒に対しても、以前にも増し
    て、ホームルーム・学年集会・全体集会等において、喫煙禁止にかかる教育指導を徹底して行った。また、
    被告高校は、生活指導部の担当教諭で校内の巡回を行い、さらに保護者の協力を得て、PTAの補導委員
    会と共同で、通学路の立番や校外における喫煙禁止の巡回を行った。
(4)しかし、このような措置にもかかわらず、喫煙する生徒は増加の一途を辿った。そこで、同年六月ころ、
    被告高校の生活指導部の内部で、喫煙を撲滅しないと学校が駄目になっていく、生徒指導規程では喫煙し
    た生徒に対して謹慎・停学とすると定められているが、喫煙生徒が増加するのは、右の措置が軽すぎるか
    らであるという意見が出され、喫煙に対してより重い処分を設けるべく、生徒指導規程の改正作業が進め
    られた。その後、喫煙した生徒に対しては進路変更を促して自主退学を勧告するという内容の改正案が作
    成され、同年一一月ころから、右改正 案について職員会議で五回にわたって討議がなされた。右
    討議の際、一回の喫煙で自主退学勧告という処分は重すぎるのではないかとの意見も出されたが、被告高
    校の集団教育秩序を回復するためには徹底した態度で臨むべきだという意見が大勢を占めた。
(5)そして、同年一二月一一日の職員会議において、生徒の喫煙をなくすためには、喫煙に対してより訓戒的
    効果の大きい自主退学勧告の措置を設けるべきであるとの決議が全員一致でなされた。そして、右決議を
    生田校長が承認・決定し、従前の生徒指導規程は改正され、喫煙について新たに本件校則が制定された。
しかし、従前の生徒指導規程第一二条において謹慎・停学の処分に該当する行為として列挙されていたも
    のについては、喫煙とパーマ・脱色・染色の二つが削除されたほかは変更がなく、パーマ・脱色・染色に
    ついては、逆に訓戒・始末書の提出という軽い処分に変更される。
(6)このように被告高校が喫煙に対して自主退学勧告という厳しい指導方針を打ち出したのは、喫煙が他の校
    則違反行為より悪質な行為であるという理由からではなく、喫煙の多発によって侵害された被告高校の集
    団教育秩序の回復を図るには、喫煙を撲滅することが必要不可欠の最優先の対策と考慮したためであった。
(7)本件校則制定後、喫煙が発覚した生徒については、被告高校は進路変更を促し、それに対し、原告以外の
    生徒は、自主的に退学した。このような厳しい指導により、喫煙生徒の数は減少し、校庭に煙草の吸殻が
    捨てられなくなり、付近住民からの苦情の電話もなくなる等被告高校の集団教育秩序は徐々に回復した。
(二)右校則変更についての原告およびその両親への通知
  (1)被告高校では、まず、本件校則制定の翌日である平成二年一二月一二日に全校集会とホームルームが開催
    され、生田校長から全校生徒に対し、今後喫煙が発覚したら進路変更を促して、自主退学を勧告する旨の
    被告高校の指導方針を伝えた。右集会には原告も出席していた。その後も、被告高校は生徒に対し、学年
    集会やホームルーム等で、ことあるごとに自主退学の方針を告知し、指導していた。また、父兄に対して
    も、同年一二月、保護者への案内を郵送し、その後も、生活指導部ニュースや育友会報等によって自主退
    学勧告の方針を伝える一方、父兄との懇親会等において、喫煙した生徒には進路変更を促して、自主退学
    勧告をするよう方針を変更した旨を説明した。
  (2)平成四年一二月五日、被告高校の寮に入寮していたある生徒が、喫煙が発覚したため自主退学したが、そ
    の際、被告高校は、寮生全員に対し、本件高校が喫煙を厳しく禁止している理由、喫煙禁止の校則を破れ
    ば自主退学になる等の指導並びに自分の為にも他の生徒の為にも決して喫煙をしてはならない旨の厳重注
    意を行った。その中には、当時入寮していた原告も含まれていた。
(三)このような状況のもと本件が生じたのである。本件喫煙事件の発覚と退学処分に至る経緯は次の通りである。
  (1)原告は、平成五年一月一五日午後八時ころ、大学入試センター試験の受験のために宿泊していた神戸ワシ
    ントンホテル五一一号室内において、喫煙をした直後を西井教諭に発見された。西井教諭は、原告に対し
    喫煙の事実について事情聴取し、原告は、本件喫煙の事実は認めた。
  (2)同月一七日午後九時頃、原告は両親とともに被告高校へ行き、西井教諭と面談した。その際、西井教諭は
    原告に対し、再度事情聴取を行った。そして、西井教諭は、原告らに対し、被告高校は喫煙した生徒には
    自主退学してもらう厳しい指導方針をとっているから、原告も自主退学になる可能性が高いと述べ、進路
    変更・自主退学を勧めた。これに対し、原告の父甲野松夫(以下「松夫」という。)は、原告が校則に違
    反して喫煙したのは悪いが、既に進学する大学も決まっており、卒業も間近なので、何とか卒業に支障の
    ないペナルティーにしてもらえないかと頼んだ。
  (3)その後、松夫は連日被告高校に足を運び、生田校長との面会を求め、同月二一日、生田校長と面談した。
    面談の際、生田校長は松夫に対し、「被告高校の方針は自主退学で決まっている。これは強制力はないが、
    これまでも全員自主退学してもらっている。」と話した。これに対して松夫は、なんでもするから、何と
    か卒業させてほしいと頼むとともに、西井教諭は、本件喫煙事件を発見した際、原告に対して暴力を振る
    ったうえ、原告を裸同然にして事情聴取を行い、電話代一七五円を踏み倒したと主張し、右の西井教諭の
    不祥事と原告の喫煙の件をチャラにしてもらえないかと言った。
(4)被告高校では、本件喫煙事件の発生当初から自主退学勧告の方針がほぼ決定していたが、原告が進学希望
    であったこともあり、自主退学後、原告が大学入学資格検定に合格するよう被告高校としてもできる限り
    の協力をするつもりであったので、大学入学資格検定の受験指導をしようとして原告に会おうとしたが、
    松夫は会う必要はないとして、原告に会わせなかった。そして、同月二六日、被告高校では、正式に自主
    退学勧告の方針を決定し、翌二七日、河西正道教頭と田中洋一郎教頭補佐が原告宅を訪れ、原告の両親に
    対して、自主退学を勧告した。その際、大学入学資格検定の受験指導のため、原告にパンフレットを渡そ
    うとしたが、松夫はこれを拒否した。
  (5)自主退学勧告後も、被告高校と原告の両親とは、再三にわたって面談したが、被告高校が原告に自主退学
    勧告に応じるよう求めたのに対して、原告の両親は、自主退学には応じられない、同年三月末に卒業を認
    めてほしいと主張し、両者の話し合いは平行線を辿った。
(6)このような状況に対して、生田校長は、原告を退学処分に処することも考えたが、弁護士のアドバイスも
    あり、懲戒権を行使するのではなく、原告との間で妥協を図ることにした。しかし、原告に対し同年三月
    の卒業を認めることは、原告のみを特別扱いにすることになり、不公平な取扱いになるばかりではなく、
    本件校則の厳しい運用の秩序が乱れ、他の生徒に悪影響を与えると考えた。そこで、同年三月一日、生田
    校長は、同弁護士を通じて、被告高校は自主退学勧告を撤回し、第三学年の単位不認定として卒業留保 
   (第三学年原級留置)とし、卒業を半年先に認定するという譲歩案を原告代理人弁護士に対して示したが、
    その後、半年間の卒業延期という案では、被告高校の他の教諭の納得は得られないであろう等と思い直し、
    翌二日、卒業延期の期間を一年間とする案に変更した。しかし、原告及びその両親は、同年三月末までに
    卒業認定をしてもらわない限り承服できず、裁判での決着も止むを得ないとして右譲歩案を受け入れなか
    った。
(7)そこで、被告高校では、原告が自主退学勧告に応じずあくまで争う姿勢を見せ、被告高校が示した原告を
    原級留置とし、一年遅れで卒業認定を行うという譲歩案も拒否したこと等を考慮して、退学処分も止むを
    得ないとの結論に達し、同月一三日、原告及びその両親に対し、同月二二日までに自主退学の手続をとる
    ことを勧告し、同日までに右手続がとられない場合には、学則第二九項第一号、第二項第四号を適用し、
    同月二三日付けで原告を退学処分にすることを通知した。しかし、原告は、同月二二日までに自主退学の
    手続をとらなかったことから、被告高校は、同月二三日、原告が学則第二九号第二項第四号の「学校の秩
    序を乱し、その他生徒としての本分に反した者」に該るとして、原告を退学処分とした。
(四)いかがでしょうか。学校側の対応もぎりぎりの対応と言えるものではないでしょうか。そして結局本件問題は
  その舞台を裁判所に移します。裁判所における主な原告の主張は次のようなものでした。
  @原告の喫煙行為は、大学入試のために自らが両親と相談して予約したホテルの室内で行われたものであり、
   このような私的領域における行為についてそもそも被告高校の生徒指導規程の適用はなく、本件喫煙行為が
  「学校の秩序を乱」す行為に該当しないことは明らかであり、被告高校の退学処分はその前提を欠き、無効で
   ある。
  A被告高校が、原告に対して退学処分を行ったことは、懲戒権行使に際しての明らかな裁量の逸脱があり、違
   法・無効である。
(五) これらに対する裁判所の判断は以下の通りでした。
  @について・・・・原告は、原告の喫煙行為は、自室と同視すべきホテルの室内で行われたもので、本件校則
           の適用はない旨主張するが、被告は、生徒教育を目的とする団体として、その目的達成に
           必要な事項を学則等に定め、在学する生徒を規律する権能を有し、右目的に関連する限り、
           生徒の校外での活動についても規律できるというべきところ、前記認定の喫煙禁止の理由、
           本件校則変更の経緯等に徴すると、本件校則は、被告高校の集団教育の秩序を保つ等から
           校外生活での喫煙も規制したものというべきであるから、原告の右主張は失当である。
  Aについて・・・・高等学校の生徒に対する懲戒処分は教育施設としての学校の内部規律を維持し、教育目的
           を達成するために認められる自律作用であるから、生徒の行為が懲戒に値するものである
           かどうか、またいずれの懲戒処分を選ぶかを決するについては、懲戒権者である校長の合
           理的な裁量に委ねられているが、右判断が社会通念上合理性を欠き、校長に裁量の逸脱が
           認められるときは、懲戒処分は違法・無効となるというべきである。
    そして、学校教育法施行規則一三条三項は、退学処分について〈1〉性向不良で改善の
           見込がないと認められる者〈2〉学力劣等で成業の見込がないと認められる者〈3〉正当
           の理由がなくて出席常でない者〈4〉学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本
           分に反した者という四個の具体的な処分事由を定め、被告高校学則二九条にも同様の規定
           があるが、これは、退学処分が他の懲戒処分と異なり生徒の身分を剥奪する重大な措置で
           あることにかんがみ、当該生徒に改善の見込がなく、これを学外に排除することが社会通
           念からいって教育上やむをえないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきである
           との趣旨においてその処分事由を限定的に列挙したものと解される。
    従って、本件の退学処分について校長の判断が社会通念上合理性を有するか否かを判断
           するにあたっては、当該行為の態様、結果の軽重、本人の性格及び平素の行状、当該行為
           に対する学校側の教育的配慮の有無、家族の協力、懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす
           訓戒的効果、右行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素に照らし、原告に改善
           の見込がなく、これを学外に排除することが社会通念からいって教育上やむをえないと認
           められる場合であったかどうかが検討されなければならない。
         裁判所はこういう判断基準を定立した上で本件では次のように当てはめました。
 (1)本件行為の態様及び結果の軽量
 被告高校が喫煙を発覚した生徒に対して進路変更を促して、自主退学を勧告をするという厳
         しい指導方針をとっていることを知っていたにも拘らず、原告が本件校則に違反して喫煙した
         ことは、非難されるべき行為であり、学校の規律を乱すものといえるが、窃盗、万引、飲酒、
         薬物乱用等に対する処分が謹慎、停学とされていることと対比すると、喫煙が改善の見込がな
         いとして、直ちに学外に排除しなければならないほど悪質な行為とはいえない。
 (2) 本件の性格及び平素の行状
 原告は、平成四年一一月に近畿大学法学部の推薦入学試験に合格しており、被告高校の学科
         単位を全て取得し、出席状況も良好で、本件喫煙事件以前には、学校で問題行動を起こしたこ
         とはなく、過去に非行歴、処分歴はなかった。
被告は、原告の喫煙経験について、原告は本件が初めての喫煙経験ではなく、二年生の冬休
         みころから、中学時代の友人と興味本位で喫煙し出し、寮や自宅で、毎日四なし五本、多いと
         きには一〇本程度喫煙していたと主張する。確かに、本件事件の際には、原告は、自ら煙草 
        (ラーク)を自動販売機で購入し、ジッポのライターを使用し、灰皿には四ないし五本の吸殻が
         あったこと(当事者間に争いがない)、≪証拠略≫によれば、原告は、本件が初めての喫煙経
         験ではなく、それまでにも喫煙経験があったと認められる。しかし、被告が主張するように原
         告が日常的に喫煙していた等の事実を認めるに足りる証拠はない。
 (3)当該行為に対する学校側の教育的配慮の有無
  被告高校は、本件喫煙事件の当初から、原告に対する自主退学勧告の方針をほぼ決定してお
         り、その後も原告の退学を前提とした対応に終始し、教育的配慮としても、原告を学内におい
         て喫煙の害等について教育指導する等の措置をとるのではなく、大学入学資格検定の受験指導
         等あくまで原告の退学を前提とした配慮であった。
被告は、被告高校が自主退学勧告を撤回し、第三学年の単位不認定として卒業留保(第三学
         年原級留置)とし、卒業を一年先に認定するという譲歩案を示したことをもって、教育的配慮
         を示したと主張するが、右案は、双方の交渉の過程で示された和解案の一つであり、これをも
         って教育的配慮ということは出来ない。
このように、被告高校において原告を退学処分に処するにあたって、原告に改善の見込があ
         るかどうか、学内における教育指導の余地があるかどうか等について、原告に対して教育指導
         を試みるなど慎重に検討し、配慮したとは言い難い。むしろ、一切の例外を認めないこれまで
         の本件校則の厳しい運用に則り、原告に改善の見込があるか否か等に係わりなく、機械的に自
         主退学勧告したものというべきである。
(4)懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果、右行為を不問に付した場合の一般的影響等
被告高校では、本件校則の制定後は、喫煙した生徒は全員自主退学しており、自主退学勧告に
        従わなかったのは原告が初めてであることからすれば、原告を退学処分に処することは、他の生
        徒に対しても、本件校則の厳しさを改めて印象づけることができ、訓戒的効果は大きいといえ、
        逆に、原告が学内に残留することを許したならば、一回の喫煙で例外なく自主退学を勧告すると
        いう本件校則の厳しい運用に例外を認めたこととなり、本件校則の弛緩を印象づけることは否定
        できない。しかし、そもそも本件校則は、万引、窃盗、暴力行為、薬物乱用(ボンド・シンナー
        吸引など)等に対する処分が謹慎・停学とされていることと比較して、重きに過ぎ、1(一)で
        認定した本件校則制定前の喫煙の多発による被告高校の教育秩序の侵害や本件校則の制定経緯を
        考慮してもなお、本件校則の合理性には疑問が残る。そして、前示3(一)(二)で認定した本
        件喫煙行為の態様、原告の平素の行状等に鑑みれば、本件喫煙事件において原告を退学処分にし
        なかったとしても、直ちに他の生徒の喫煙行為を助長する虞が生じるとは認められないし、本件
        校則の目的である被告高校の集団教育秩序の維持が図れなくなるとはいえない。
(5)家族の協力
学校教育においては、学校と家族が協力して、生徒の指導教育を行うべきであり、特に喫煙禁
        止のような生活指導については、校外における行動に対する規律をも含む指導であることから、
        家庭における指導がより重要となり、生徒の保護者等が学校の教育方針に非協力的であったり、
        批判的であったりしては、生徒に対する教育指導に重大な支障が生じかねないのであって、生徒
        の改善の見込の有無を判断するにあたっても家族の協力の有無は考慮すべきである。
そこで本件における原告の両親の態度を検討すると、前に認定したとおり、松夫は、生田校長に
        対し、なんでもするから、何とか卒業させてほしいと頼んだだけでなく、西井教諭の暴行等の話
        を持ち出し、右の西井教諭の不祥事と原告の喫煙の件をチャラにしてもらえないかともちかけて
        いるのであり、親として子供の退学を免れるための交渉としては行き過ぎた行為であり、不相当
        な行為であると言わざるをえない。しかし、他方、松夫は、喫煙行為自体は悪いことであり、相
        応の処分は受けるべきであると一貫して述べているのであって、喫煙禁止という被告高校の教育
        方針に対して非協力的あるいは批判的であるとはいえず、松夫の言動をもって、原告に対する教
        育指導について家族の協力が得られないと判断することはできない。
(6)以上摘示した諸般の事情を考慮すると、原告は改善の見込がなく、同人を学外に排除すること
        が社会通念からいって教育上やむをえないとは認められないから、本件退学処分は、社会通念上
        合理性を欠き、校長に懲戒権行使にあたっての裁量の逸脱が認められ、本件退学処分は違法とい
        うべきである。
3 総括
 裁判所はこのように退学処分は違法であり無効だとした。だからといってこういう処分方針を一切採用してはい
けないと言いきれるわけでもないと思われる。問題はその基準の定め方でありそのシステム設計であろう。例えば
学内により広範な観点から判断する第三者委員会等を設置して本件処分の当否を判断させるというシステムがあれ
ば、ここまで数年間にわたり関係者が苦しむことなくもっと早期に妥当な結論を得られたのではないかと思われる。
これは前述の裁判所の判示中に「一切の例外を認めないこれまでの本件校則の厳しい運用に則り、原告に改善の見
込があるか否か等に係わりなく、機械的に自主退学勧告したものというべきである。」とあるが、まさにこのこと
を指摘していると思われるのである。いずれにしても判例はここまで読まなければ本当の姿はわからないと思われ
る。




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