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2015年10月20日 [法律]

校則違反と退学処分(2)

校則違反と退学処分(2)
平成3年5月27日/東京地方裁判所/ バイク退学処分事件
第1 事案の概要
  今回も校則違反と退学処分という問題を取り扱います。今回の事案は、私立高校(スポーツでも有名)第2学年
 に在籍中、校則で禁止されている運転免許を取得し、バイク乗車したことを理由に退学処分を受けたというもの
 で、これに対して原告は被告に対し、右退学処分は違法であるとして、慰謝料等損害賠償計約753万円を請求
 したという事案である。
  ところで本件退学処分がなされたのが昭和63年2月、裁判所への提訴が翌平成元年、第1審判決が平成3年
 5月、第2審(控訴審)の判決が平成4年3月であるから、事件発生(退学処分)から最後の判決が出るまで約4
 年間経過しており、控訴審判決時には当然原告生徒も成人に至っている。

第2 本件で問題となった校則とは
  本件で問題となった校則とは次のような内容である(正確には校則そのものではなくそれと一体となった生活指
 導規定と言うものである)。
「自動車類(原付・自動二輪・普通)免許の取得は、如何なる理由でもこれを認めない。ただし、高校三年三学期
 卒業考査以降ならば、普通免許に限り、学校に届出の後、教習所での受講を認める。就職希望者で免許の必要な
 場合は別途考慮する。免許を取得した者は、学校に届出のうえ、登録しなければならない。この規定に違反し、
 無届での免許取得または乗車が発覚した場合は、理由の如何を問わず退学勧告をする。」
 「事故者は生徒指導部会、職員会議などの協議を経て、校長の裁定により次の処置をする。学校の秩序を乱し、
 学則及び生活指導規定に違反し、その他生徒としての本分に反していると認められた者については、協議し処分
 する。特に、無届での自動車類免許取得及び乗車については、退学勧告をする。なお、処分には、訓告・停学・
 退学がある。」

第3 原告の言い分は
  上述のような校則の適用により退学処分が下されて本件裁判に至ったわけであるが、原告(生徒)側が主張した
 ことは概要以下の内容であった。
  @運転免許取得・バイク乗車の禁止を定めた本件校則は、憲法一三条の定める自己決定権を侵害する。
  A本件校則は、学校設置者の校則制定権能を逸脱しており、その内容も不合理である。
  B本件退学処分は、事実誤認に基づき、重すぎるものであって、懲戒権者である校長の裁量権を逸脱している。
 と言うものである。もちろん最大の問題はBであることは言うまでもない。

第4 事案の経過

 1 原告は、昭和61年4月、本件私立高校に入学し、同63年2月当時、第2学年に在籍していた。
 2 前述の校則は以下の通りの経緯で制定・運用されてきた。
 (1) 本件高校では、昭和四〇年代当初、自動車類の免許の取得について申告すればこれを認めており、免許
   の交付を受けるための欠席を公務欠席の扱いとするなどの便宜をも図り、免許証の所持者に限らず、生徒に
   対する交通安全教育のため、警察署の協力を得て、交通安全の講演会・映画会を実施し、免許証の取得者に
   対しては、担任教師による個別指導を行うなどしていたが、昭和四五年ころから、バイクの乗車事故のため
   に体育の授業に参加できず見学する者が増加し、また、バイクの購入のためにアルバイトに従事する者が増
   加していることが指摘されるようになってきた。右経緯から、被告は、バイク事故から生徒の生命、身体を
   守り、併せていわゆる暴走族への加入等による非行化を防止して、生徒を勉学に専念させる目的で、昭和四
   六年、生活指導規定を改正し、生徒の免許の取得を原則として禁止した。改正後の規定では、〈1〉自動車
   類免許の取得は三学年の一学期以降に限り認める、〈2〉家事等の理由でこれ以前に免許の取得を希望する
   生徒に対しては、個別に許可を与える、〈3〉これに違反し、あるいは事故を起こした者に対しては、厳重
   注意や処分をすることもある、等とされた。
 (2)その後昭和四九年には、本件高校の生徒二名がいわゆる暴走族として警察に補導され、また、昭和四七年
   には、バイク事故による死亡者も現れ、以後昭和五二年までに合計五名がバイク事故で死亡した。このよう
   な事情から、本件高校においては、生徒の生命、身体をバイクによる交通事故から守るための対策が検討さ
   れ、事故の写真、実例などを示して教師から生徒、保護者に事態の重大さを理解させるように努めるほか、
   生活指導規定に違反してバイクの免許の取得やこれへの乗車をした者に対し、厳しい態度で臨むべきではな
   いかとの意見が出されていた。特に昭和五二年には、同年一月、バイク事故で死亡した生徒の父親が被告に
   寄せた小稿の中で、子にバイクを買い与えたことを後悔する気持を切々と訴えると同時にバイクの危険性を
   指摘し、本件高校の生徒に対し、絶対乗車しないようにと呼びかけたことも大きな契機となって、生徒指導
   部会において、自動二輪免許の取得者は即時退学とする旨決するとともに、右免許を取得せず、右取得の事
   実が発覚したときは退学する旨を誓約する書面を生徒及び父母から提出させることとしたほか、被告は、昭
   和五二年四月、生活指導規定を改正し、無届で免許を取得した者に対しては、退学を勧告するとの条項を追
   加した。
    本件高校の生徒の父母の間でも、バイクに乗りたがる子供を家庭で説得することは困難であるとして、学
   校側による規制を希望する声が強かったことから、右父母で組織される後援会も、右改正に賛同の意を表明
   し、全校生徒の父母に対して、バイク禁止に協力を呼びかけるに至った。
 (3)被告は、その後数回、多少の手直しを加え、昭和六一年四月一日、現行の本件生活指導規定とした。
    なお、本件高校においては、昭和五二年以降一件もバイクによる死傷事故が発生していない。
 3 本件の経緯
 (1)原告による免許の取得等
   @原告は、本件高校第1学年に在学していた昭和61年12月24日、自動二輪の免許を取得した。
   A原告は、昭和62年4月25日ころ、自己の負担で中古の自動二輪車(四〇〇cc。代金五二万円)を購入
    した。右購入について、原告の父親は反対したが、母親は原告が友人から借りたバイクに乗車して事故を
    起こすことを心配し、むしろ自分の車を持たせた方が良いとの意向を示したため、結局父親も折れ、(1)夜
    間・雨天時は乗車しない、(2)スピートを出さず、安全運転をする、(3)車の維持費・ガソリン代は自弁す
    る、(4)勉強を怠らない、等の条件付きで右購入を了承した。
   B原告は、両親の営む店舗を手伝うため、自宅と同店舗を往復するほか、遊びの目的でも自動二輪車に乗車
    していた。ところが、原告は、同年11月23日ころ、バイク仲間の友人がバイク運転中に交通事故で死
    亡したことに強い衝撃を受け、バイクの運転をやめようと決意して、友人に自動二輪車を売却し、運転免
    許証を父親に預けた。
   Cこれより先、本件高校では、生徒の中にいわゆる暴走族に加入している者がいるとの情報を得たため、昭
    和62年6月30日ころ、生徒指導部会において、生徒に免許証の提出を呼びかけ、これに応じて免許証
    を提出した者については、一切処分をしない方針を決定した。原告のクラスを担任するW教諭は、原告ら
    クラス生徒に対し、右決定を知らせ、免許証の提出を呼びかけたが、このときは、原告は、提出しなかっ
    た。
   Dその後、W教諭は、同年一二月ころ、清掃時間に担任クラスで原告ら数名の生徒と談笑中、話題がバイク
    に及び、原告らに対し、免許証を持っているなら提出するよう言い、これを聞いた原告は、免許の取得の
    事実が同教諭に知れたものと誤解し、両親とも相談の上、翌日、同教諭に免許証を提出した。同教諭は、
    原告が十分反省している様子だったため、処分の対象とするまでもないと考え、今後乗車することがない
    ように注意するにとどめ、生徒指導部会等には報告しなかった。
   E右提出後の昭和63年1月3、4日ころ、原告は、自宅の近所に住む友人から、五〇cc原動機付自転車の
    修理を頼まれ、自宅に預かって修理した上、数日後返却した。原告は、右預かる際と返却する際に自宅と
    友人宅の間を右原動機付自転車に乗車した。
 (2)本件退学処分に至るまでの事実経過
   @昭和63年1月20日夕方ころ、本件高校に匿名で通報されたという、原告によるバイクへの乗車の事実
    に関し、翌21日朝のホームルーム終了後、職員室隣の応接間において、W教諭は、第二学年の生徒指導
    担当教諭であるM教諭と一緒に事情を聴取した。両教諭の質問に応じ、原告は、バイクに乗車したことを
    肯定し、その目的について家業の手伝い、友人宅訪問及び友人にバイクを売却するためであると答え、乗
    車の回数は3、4回、その日時について1月13、14、15日ころなどと返答した。両教諭は、原告に
    対し、乗車の目的、日時、場所を紙に書かせ、乗車の場所が自宅の近辺であるかどうか、暴走族のような
    行為をしていたかどうか等についても質問し、原告は、いずれも自宅近辺で乗車したもので、暴走行為は
    一切していないと答えた。
   AW教諭らは、右事情聴取の後、連絡を受けて来校した原告の母親に対し、原告が三回程バイクに乗車した
    事実を認めていることを告げ、処分が決まるまで自宅で待機するよう指示した。
    母親は、帰宅後、原告から、乗車した事実がないにもかかわらず、1月13、14、15日に乗車したと
    答えたとの説明を受け、同21日の放課後、W教諭に電話し、原告の右弁明の趣旨を伝えた。
   B翌22日、W教諭、M教諭及び生徒指導部会主任であるR笠教諭の三人は、生徒指導部会を開き、原告の
    処分につき協議し、原告が前年6月の免許証の提出を呼びかけた期間の後に初めて免許証を提出したこと、
    バイクへの乗車への事実を認めていること、母親の電話の内容からして家庭での指導が期待できないこと
    等を考慮し、自主退学するよう勧めることに決定した。
   C母親は、原告が友人から預かった原動機付自転車を自宅で修理していたことは知っていたものの、乗車し
    たことは知らず、原告の自動二輪車は既に売却済みであり、さらに、原告から乗車した事実がないのにこ
    れを認めたとの説明を受けていたこともあって、1月23、4日ころ、校長に面会を求め、原告がバイク
    に乗車した事実はないと訴えた。これに対し、同校長からその場に呼び出されたW教諭は、原告自身がバ
    イクへの乗車の事実を認めている旨説明したにとどまり、それ以上、話は進展しなかった。
   DW教諭は、同月25日ころ、母親に電話し、退学処分になれば公的記録に残るが、自主的に退学すれば家
    事都合による退学とされるだけで、転校等に有利であるとして、自主的に退学するよう勧めた。これに対
    し、母親は、乗車の事実関係について説明もないまま自主退学を勧められたとして、これを拒否し、むし
    ろ退学処分とするよう求め、1月28日、夫と原告の名で退学処分に異議がないとの趣旨を記載した書面
    を作成し、これを校長宛に送付した。
 (3) 本件退学処分の決定と通知
   @1月17日、職員会議において、原告によるバイクへの乗車に関する外部からの通報、三回程バイクに乗
    車したことを原告が認めたこと、原告が前年6月の免許証の提出の呼びかけには応じず、12月に至って
    担任教諭に免許証を提出したこと、その際、担任教諭が注意を与え、免許証を預かっていたこと、生徒指
    導部会では、原告に対して退学を勧告するのが適当であると決定したこと等についてM教諭からの報告を
    受けた上で原告に退学を勧告することが決定され、校長は、W教諭に対し、原告の両親に自主的に退学す
    ることを勧めるよう指示した。
   Aその後、校長は、母親からの前記書面を受け取り、再度生徒指導部会で検討させ、両親が退学処分を望む
    以上、退学処分もやむをえないとの意見を得た上、昭和63年2月3日、原告を退学処分にすることとし、
    原告宛に退学処分通知書を送付した(同月8日到達)。なお、学籍簿には原告に対して退学処分がされた
    事実は記載されず、家事都合のための退学と記載された。
 (4)以上が本件の経過です。そこにはいろいろな問題があり、事実と異なることを認めた原告生徒、これに簡
   単にのってしまった教諭ら学校側、退学勧告の判断にいたる拙速さ、これに対する父兄の対応(退学受諾の意
   思表示)等々、いろいろな要素が複雑に入り乱れていると言った様相と感じられます。
第5 裁判所の判断(要点のみ)
  この判決の判断部分は大変大部なのでとりわけ@Aについては筆者のほうで大幅にまとめさせていただきます。
  この点についての前の記述と相当間隔が空いてしまったのでもう一度本件で問題となった争点を掲載しておき
  ます。
  @運転免許取得・バイク乗車の禁止を定めた本件校則は、憲法一三条の定める自己決定権を侵害する。
  A本件校則は、学校設置者の校則制定権能を逸脱しており、その内容も不合理である。
  B本件退学処分は、事実誤認に基づき、重すぎるものであって、懲戒権者である校長の裁量権を逸脱している。
  ということでした。そこで裁判所の判断です。
 1 @について
   私立学校が公共性を有するからといって、直ちに私立学校を国又は公共団体と同視したり、私立学校と生徒
   間の関係については、他の私人相互間とは異なって、対公権力と同様の人権規律が適用されるものと解した
   りすることはできないので本件生活指導規定が憲法一三条に違反するとの原告の主張は認められない。
 2 Aについて
   特に高校生の場合には、その年齢等からみて心身共に未だ十分には成熟しておらず、人格形成の途上にあり、
   また、校外におけるバイクへの乗車といえども、事故により自他の死傷の結果を招来した場合には、学校の
   教育活動に支障をもたらすことは明らかであるし、生徒がバイクに熱中して学業を疎かにするときは、学内
   における教育環境を乱し、本人及び他の生徒に対する教育目的の達成を妨げるおそれもあるのであるから、
   これを規制することも、本件高校をとりまく前記認定の事情の下では、学校設置の目的達成のために許され
   るものというべきである。
 3 Bについて
(1)裁判所が採用する判断枠組み(判断基準)。
 (@)高等学校の生徒に対する懲戒処分は、教育の施設としての高等学校の内部規律を維持し、教育目的を達成
   するために認められる自律作用であって、懲戒権者である校長が生徒の行為に対して懲戒処分を発動するに
   当たっては、その行為が懲戒に値するものであるかどうか、また、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべき
   かを決するについては、当該行為の軽重のほか、本人の性格及び平素の行状、右行為の他の生徒に与える影
   響、懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果、右行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要
   素を考慮する必要があり、これらの点の判断は、その決定が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場
   合であるか、又は社会通念上著しく妥当を欠く場合を除き、学内の事情に通暁し、直接教育の衝に当たる校
   長の合理的裁量に任されていると解すべきである。
 (A)もっとも、学校教育法一一条は、懲戒処分を行うことができる場合として、単に「教育上必要と認めると
   き」と規定し、これを受けた同法施行規則一三条三項は、退学処分についてのみ(1)性行不良で改善の見込が
   ないと認められる者、(2)学力劣等で成業の見込がないと認められる者、(3)正当の理由がなくて出席常でな
   い者、(4)学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者、という四個の具体的な処分事由
   を定めており、本件高校の学則一九条にも同旨の規定がある。これは、退学処分が他の懲戒処分と異なり、
   学生の身分を剥奪する重大な措置であることに鑑み、当該生徒に改善の見込みがなく、これを学外に排除す
   ることが教育上やむをえないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであるとの趣旨において、そ
   の処分事由を限定的に列挙したものと解される。この趣旨からすれば、生徒に対し、退学処分を行うに当た
   っては、他の処分に比較して特に慎重な配慮を要する。
(2)裁判所の個々の項目に対する具体的評価
 (@)原告の乗車行為の態様とその評価
    原告は、本件生活指導規定に違反し、無届で自動二輪免許を取得した上、購入した自動二輪車に乗車し、
    さらにW教諭に免許証を提出した後にも修理するために預かった友人の原動機付自転車に乗車した。
    免許の取得と自動二輪車への乗車それ自体は看過できない行為ではあるが、その後、原告は、友人の死亡
    を契機に自発的に乗車をやめることを決意して自動二輪車を売却し、免許証も父親に預けているばかりか、
    免許の取得が発覚したものと誤解したことが直接の契機であったにせよ、すすんでW教諭に免許証を提出
    したことからしても、原告が免許の取得及び自動二輪車への乗車について、十分自戒するに至っていたも
    のと認めうる。そして、同教諭は、提出を受けた際、以後乗車しないよう口頭で注意を与えるにとどめ、
    免許の取得及びそれまでの自動二輪車への乗車の事実について懲戒処分のための所定の手続を採らなかっ
    たのであり、その後の乗車の事実がなければ、原告に対し、懲戒処分が行われなかった蓋然性は極めて高
    いものというべきである。
     もっとも、免許証を提出した後、友人から原動機付自転車の修理を頼まれ、自宅と友人宅との間を往復
    乗車した事実は、W教諭から注意を受けた後間もないことで、しかも免許証不携帯であったことからする
    と問題ではあるけれども、その動機、態様からみて、右乗車自体は偶発的で一時的なものであることは明
    らかであるから、それほど悪質なものということもできず、右事実をもって、原告に反省の実が認められ
    ず、教育目的を達成する見込みが失われたものとまでいうことはできない。

  (A) 原告の性格及び平素の行状
    原告は、やや気が弱く、調子に乗りやすい面があるものの、素直で明朗、優しい性格で、情緒も安定して
    いたこと、本件高校一学年時の成績は中程度であり、出席状況も良好であったこと、学校において、指導
    上問題となる点は見受けられず、本件以外に被告教員らから注意や処分を受けたことはないこと、家庭に
    おいても、よく家業の手伝いをしていたことが認められる。
     右のように、原告には過去に処分歴が全くなく、平素の行状、性格の面でも格別問題になる点は存在し
    なかったのであって、今回初めて処分の対象となった原告について、直ちに改善の見込みがないものとし
    て、学外に排除することが教育上やむをえない措置であったものとは考えがたい。

  (B) 本件退学処分の原告及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果等
    被告(高校)は本件生活指導規定の定める免許取得・バイク乗車の禁止を教育方針として重視し、違反者に
    対して、退学を勧告することにより、その遵守を徹底させていたこと、現実に右規定に違反したことが発
    覚して、自主的に退学した生徒も過去に存在したことが認められる。右認定事実によると、原告を退学処
    分にすることによる他の生徒に対する訓戒的効果は大きく、被告がその教育方針である右禁止の徹底のた
    め、原告に対し、厳しい態度で臨む必要があったこともある程度首肯できるところではある。
    しかしながら、前記のとおり、本件高校学則二〇条には、懲戒の種類として、〈1〉訓告〈2〉停学〈3
    〉退学の三種類の定めがあり、本件高校においては、従前から生徒に免許証の提出を呼びかけ、これに応
    じた者に対しては、何らの処分をしないという運用も行ってきたこと、免許の取得が発覚したものの、バ
    イクへの乗車の事実を確認することができなかった生徒に対し、無期停学処分をした例も過去にあったこ
    とが認められる。右認定の例に照らすと、原告の免許の取得及びバイクへの乗車の事実について退学以外
    の処分を科すことによって、被告のバイク禁止という教育方針の維持貫徹それ自体がゆるがせになるとい
    うこともできない。

  (C)家族の態度等
    原告の母親は、原告から乗車していないとの説明を受け、被告に対し、原告がバイクに乗車した事実を否
    定する態度を取ったのであり、母親の被告に対する説明の趣旨が必ずしも十分には伝わらず、あるいは、
    表現にも適切を欠く面があったことがうかがえないわけではなく、また、免許の取得を禁止する本件生活
    指導規定の存在を認識し、これを遵守するとの誓約書を提出しながら、原告が免許を取得し、自動二輪車
    を購入することを容認した原告の両親に関して、右規定に違反したことについての反省が見られないとし
    て、家庭での指導が期待できないと被告が考えたことも無理からぬものがある。
    しかしながら、処分の事由となる事実の一部であるにせよ、自認していない事実を理由として学校を退学
    となるかもしれないという子の重大な危機に直面し、親として、真実を訴え、あるいは、事実が子により
    有利に評価されるよう訴えようとすることは避け難いことであり、現に、母親は、原告がバイクに乗車し
    た事実はないとして、校長に面会を求め、その趣旨を伝えているのであり、これに対しては、W教諭から、
    原告がバイク乗車を認めているとの説明がされたにとどまるのであるから、母親の言動をとらえて原告に
    対する指導について家庭の協力が期待できないと即断することはできない。
     また、校長との面会後、母親は、原告と父親名で退学に異議がないと記載した書面を提出し、被告は、
    このことをも考慮して本件退学処分を決定しているところ、退学処分は、校長が教育的裁量によって行う
    懲戒処分であるから、当該生徒あるいはその保護者がこれを望んだからといって、当然に是認されるもの
    ではない。
(3)裁判所の総合判断
   ・・・以上のとおり、本件退学処分の事由は、昭和61年12月の原告による免許の取得、同62年4月以
   降11月ころまでの自動二輪車への乗車、同年12月に免許証を渡部教諭に提出した後三、四回バイクに乗
   車したことの各事実であるが、そのうち、免許の取得と免許証を提出するまでの間の自動二輪車への乗車に
   ついては、担任限りではあるものの、免許証を提出した際に格別懲戒が問題とされず、一応不問に付された
   と考えられること、右事実は、免許証を提出した後のバイクへの乗車の事実が発覚したことから、懲戒事由
   とされたところ、免許証を提出した後のバイクへの乗車は、修理のために友人の原動機付自転車を預かった
   昭和63年1月3,4日ころ及び同月9日の2回にとどまり、他にはバイクに乗車した事実を認め得ないこ
   との外、処分対象となった行為の軽重、その影響等前記認定の諸般の事情を併せ考えると、原告に対しては、
   他の懲戒処分によっても教育の目的を十分達しえたものというべきであり、原告にはもはや改善の余地はな
   く、同人を学外に排除することも教育上やむをえなかったものということは到底できないから、本件退学処
   分は、社会通念上著しく妥当性を欠き、懲戒権者である校長の裁量権の範囲を逸脱した違法な処分である。
 4 その他・・・慰謝料請求について
   金銭評価の点についても本訴訟の結果についてご説明しておきます。
  @本件訴訟は損害賠償請求訴訟として争われていました。原告は、本件退学処分により、高校中退という消し
   がたい汚名を受けることになり、大学入学資格を得るために大学入学資格検定を受けざるをえないという不
   安定な状態に陥るなど、多大の精神的苦痛を被ったということで慰謝料500万円を請求していました。こ
   れについて裁判所は次のように判示しました。
  A「被告の本件不法行為により、原告は、高等学校から退学処分を受けるという不名誉を被ると同時に、将来
   の進路にも影響を受け、少なからぬ精神的打撃を受けたものとは認められるが、他方、本件高校が免許の取
   得、バイクへの乗車を禁止しており、原告は、右違反が発覚した場合には退学処分に従うとの誓約書まで提
   出しながら、右誓約の趣旨に反し、本件退学処分に至る原因を自ら作出しているのみならず、処分事由とさ
   れたバイクへの乗車の事実に関する事情聴取に対して適切な応答をしなかったことも、校長が本件退学処分
   を決定するに至った原因となっていることをも併せ考えると、原告の精神的苦痛を慰謝するには金50万円
   をもって相当とする。」としました。
   請求額からすると1/10にしたということになります。もっとも原告としては本件は金銭目的で起こして
   いる訴訟ではないでしょうから大きな問題にはならなかったかもしれません。
 5 ところで本件から学べる教訓としては、学校が生徒指導の一環として行う各処分のうち、退学処分の判断は
  教育的観点のみから決められるものではなく、社会的観点を含めたより広い視野から判断する必要があると言う
  ことである。それはこの裁判の判決でも「この趣旨からすれば、生徒に対し、退学処分を行うに当たっては、
  他の処分に比較して特に慎重な配慮を要する。」という短い一文に込められている。冒頭に指摘したとおり事
  件発生(退学処分)から最後の判決が出るまで約4年間経過しており、裁判所で判断が下されるとしても時機を
  失してしまっているというほかないのである。


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