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松尾茂利法律事務所
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2019年03月02日 [法律]

憲法改正問題について

> 第2次世界大戦後の日本とドイツの独立の歩みと憲法改正
> 1 歴史のおさらい(敗戦国としてのドイツと日本)
> どうしてもこの問題に検討するについては両国の第2次大戦後の歴史を振りか
えらざるを得ないので歴史の復習に少しお付き合いいただきたい。
> @ご存じの通りドイツも日本も第2次世界大戦において枢軸国側として参戦し
ともに敗戦した。ドイツは1945年5月、無条件降伏、日本は同年8月にポ
ツダム宣言を受諾して戦争が終結した。
> Aその後、戦勝国による占領統治が継続されるのは日独両方とも全く同様であ
る。但し、その占領形態が日本ではアメリカの単独占領であったのに対し、ド
イツでは米英仏ソの分割占領であった点が大きく異なる。そのためドイツでは
将来的に米英仏の西側諸国が占領したテリトリーが西ドイツ、ソ連が占領した
テリトリーが東ドイツと言うことになった。1949年5月にドイツ連邦共和
国(いわゆる西ドイツ)の憲法である「基本法」が成立した(この「基本法」
と言う用語は将来のドイツ統一までの暫定的憲法であるという意味であったが
東西両ドイツが統一した現在でも同じ名称を用いている)。但し独立したと言
っても軍隊を持つと言うことではなく以前占領軍が駐留していた。他方日本は
単独占領であったこともあり西ドイツのような国家の分断・独立問題はなく、
1946年11月に日本国憲法が成立しました。このように若干の違いはある
ものの両国とも戦争ができない国として規定され、成立時のドイツ基本法や日
本国憲法は軍隊を持つことが許されないいわゆる、平和な「憲法、基本法」と
して規定されていた。
> 2 但し憲法(基本法)の改正の容易性・可能性については、その成立当初から憲
法・基本法の改正条項の定め方で差が現れていた。まずこの点は大きいかもし
れないので説明しておきます。日本国憲法では憲法改正条項は次のようになっ
ています(96条)。
┌────────────────────────────────┐
│日本国憲法 │
│第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成 │
│で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければなら │
│ない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれ │
│る投票において、その過半数の賛成を必要とする。 │
│2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、 │
│この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。 │
└────────────────────────────────┘
   > 他方、ドイツ連邦共和国基本法の改正条項は次の通りです(79条)。但し
    成立当初は今の条項の通りではなく一部改正されて現在の規定になってい
    ます(後述)。
┌────────────────────────────────┐
│ 第79条 [基本法の改正] │
│(1) 基本法は、基本法の文言を明文で改正または補充する法律によって │
│のみ改正することができる。講和の規律、講和の規律の準備もしくは占 │
│領法秩序の解除を対象とする国際条約、または連邦共和国の防衛に役立 │
│つことが確実な国際条約の場合には、基本法の規定が条約の締結および │
│発効に反しないことを明らかにするには、そのことを明らかにするだけ │
│の基本法の文言の補充で足りる。 │
│(2) このような法律は、連邦議会議員の3分の2および連邦参議院の表 │
│決数の3分の2の賛成を必要とする。 │
│(3) 連邦制によるラントの編成、立法における諸ラントの原則的協力、 │
│または第1条および第20条に定められている諸原則に抵触するような、 │
│この基本法の改正は、許されない。 │
└────────────────────────────────┘
   >何処が大きく違うかというと西ドイツ基本法は両議院議員の2/3の多数決
   さえあれば基本法の改正ができるののに対し、日本国憲法では第96条第1
   項で規定する憲法改正国民投票での多数決が要求されている点であります。
   この点で西ドイツ基本法は改正が容易になっているといえます。というより
   か国民投票を要求する世界の憲法はいくつも存在しますが、人口当時700
   0万人の国で国民投票を要求するというのは相当厳しいハードルといえ立法
   担当者は非常に憲法の改正を困難にしたかったのではないかと考えられます。
   ところでドイツ基本法のように規定すると逆に国家の基本法が比較的簡単に
   変えられて国民に不利益が及ぶのではないかという危惧が生じます。そこで
   ドイツ基本法では一定の歯止めの規定を置いています。すなわち安易な改正
   で国民の権利が不当に害されることがないような規定です。なお、この点に
   ついて日本国憲法には何ら規定がないので日本の憲法学会では「憲法改正の
   制限がありやなしや」という論点として議論されています。ところでドイツ
   基本法は、第79条(3)に規定しています。それは、簡単に言うと(日本で言 
   う)衆参両院議員3分の2以上の多数同意を持ってしても改正を許さないと
   いう規定という方式で定めています。どういう規定かというと
  > @ラント(和訳では「州」とされることが多いのですがそれよりも独立性が高
    く一種の国のような自治体ですexバイエルン州、フランクフルト    
    州・・・)の政治の自主性を尊重して、ラントによる連邦の構成や立法に
    はラントの協力が必要という原則を犯しかねない改正はできないものと 
   (要するに地方自治の徹底)し、また
  > A基本法第1条及び第20条に定められている人間の尊厳や、民主主義原理
に抵触するような改正はできないものとしています。ナチスによる民主主義
の否定に対する反省が根底にあることは言うまでもありません。
> 3 その後のドイツにおける安全保障絡みの改正
> @このように改正の容易さと言う点については、西ドイツ基本法と日本国憲法
との間には少なからず差があったことは確かでありますが、そのような差はあ
ったにしてもその後の両国の歩みは大きく異なってきます。その原因は両国の
置かれている立場の差であったと言えます。すなわち、第2次世界大戦後、世
界は米ソ両国による厳しい冷戦の状態に陥りましたが、日本は、極東の島国で、
かつ前述の通りアメリカ単独占領の状態から独立国に移行したためそのままア
メリカ保護下にありました。これに対し、西ドイツは冷戦下のヨーロッパの一
要塞として最前線で東側陣営に睨みをきかしておかなければならない立場にお
かれていたのです。そのために西ドイツではこの情勢に応じた形で、逐次基本
法の改正が行われていきました。
> A西ドイツにおいて最初に目を引く改正と言えば1954年3月の基本法改正で
す。この時の世界情勢は1953年スターリンが死去し、東欧諸国の反ソ暴動
が起こり、東西両ドイツの緊張が高まりはじめた状況ということになります。
こういう状況を受けての改正となっています。その改正部分は前述の基本法改
正手続条項(79条第1項の)の下線部分である。一言で言えば基本法改正事項
として「防衛」も入る(防衛は聖域ではない)ということを確認的に規定した
わけである。因みにまだこの時点では西ドイツは国防に関して何の権限も与え
られておらず「西ドイツ軍」もありませんでした。しかしながら将来の再軍備
を見越してこの改正を行っているというわけです。はたしてこの改正が当ては
まる国際情勢が生じるのかであるが、まさにこの改正は現実のものとして意味
を持ってくるのである。
> Bすなわち次に国防関係で西ドイツの基本法が大きく改正されるのは1956年
3月の改正である。実はその少し前の1954年に西ドイツのNATO(北大
西洋条約機構)入りの話が出て、そこから着々と準備していたというわけであ
る。これにより西ドイツは再軍備の権利を確保し、同時にNATOにも加入す
ることとなったのである。以下がその改正内容である(但しこの条文は196
8年に再改正されておりますのでその再改正分も含む)。
┌───────────────────────────────┐
│ 第87a条 [軍隊の設置と権限] │
│(1) 連邦は、防衛のために軍隊を設置する。軍隊の員数および組織の大 │
│綱は、予算によって明らかにしなければならない。 │
│(2) 軍隊は、防衛を除いては、この基本法が明文で認めている場合に限 │
│って出動することができる。 │
│ │
│(3) 軍隊は、防衛事態および緊迫事態において、防衛の任務を遂行する │
│ために必要な限度で、非軍事的物件を保護し、かつ交通規制の任務を遂 │
│行する権限を有する。その他、軍隊に対して、防衛事態および緊迫事態 │
│において、警察的措置の支援のために、非軍事的物件の保護を委任する │
│ことができる。この場合、軍隊は、所管の官庁と協力する。 │
│ │
│(4) 連邦およびラントの存立または自由で民主的な基本秩序の防衛のた │
│めに、連邦政府は、第91条2項の条件が存在し、かつ、警察力および │
│連邦国境警備隊では不足するときは、警察および国境警備隊が非軍事的 │
│物件を保護し、組織化され武装した反徒を鎮圧をするのを支援するため │
│に、軍隊を出動させることができる。軍隊の出動は、連邦議会または連 │
│邦参議院の要求があれば中止しなければならない。 │
└──────────────────────────── ──┘
> また同時に徴兵制を定めました。
┌─────────────────────────── ───┐
│ 第12a条 [兵役義務と役務義務] │
│(1) 男子に対しては、満18歳から軍隊、連邦国境警備隊または民間防 │
│衛団における役務を義務として課すことができる。 │
│ │
│(2) 良心上の理由から武器をもってする兵役を拒否する者には、代替役 │
│務を義務づけることができる。代替役務の期間は、兵役の期間を超えて │
│はならない。詳細は、法律でこれを規律するが、その法律は、良心の決 │
│定の自由を侵害してはならず、かつ、軍隊および連邦国境警備隊の諸部 │
│隊と無関係の代替役務の可能性をも規定しなければならない。 │
│ │
│(3) 1項または2項による役務を課されていない兵役義務者に対して │
│は、防衛事態において、法律によってまたは法律の根拠に基づいて、一 │
│般住民の保護を含む防衛の目的のための非軍事的役務の義務を労働関係│
│において課すことができるが、公法上の勤務関係における義務づけは、 │
│警察的任務の遂行、または公法上の勤務関係においてのみ履行しうるよ │
│うな、公行政の権力的任務の遂行に関するものに限って許される。1段 │
│による労働関係は、軍隊、軍隊への供給の分野および公行政において設 │
│定することができるが、一般住民への供給の分野において労働関係上の │
│義務を課すことは、一般住民の生活に必須の需要を充足し、または一般 │
│住民の保護を確保するためにのみ許される。 │
│ │
│(4) 防衛事態において、非軍事的衛生施設および治療施設ならびに場所 │
│を固定した衛戌病院における非軍事的役務給付の需要を志願に基づいて │
│満たすことができないときは、満18歳から満55歳までの女子を、法律 │
│によってまたは法律の根拠に基づいて、この種の役務給付のために徴用 │
│することができる。女子は、いかなる場合にも武器をもってする役務に │
│従事してはならない。 │
│ │
│(5) 防衛事態の発生前においては、3項の義務は、第80a条1項によっ │
│てのみ課すことができる。3項の役務で特別の知識または熟練を必要と │
│するものの準備のために、法律によってまたは法律の根拠に基づいて、 │
│養成訓練行事への参加を義務づけることができる。その限りで1段は適 │
│用されない。 │
│ │
│(6) 防衛事態において、3項2段に掲げた分野における労働力の需要が │
│志願に基づいては充足されないときは、この需要の充足のために、職業 │
│活動または職場を放棄するドイツ人の自由は、法律によってまたは法律 │
│の根拠に基づいて、制限することができる。防衛事態の発生前において │
│は、5項1段を準用する。 │
└───────────────────────────── ┘
>4 日本における安全保障問題と憲法改正
> このように西ドイツの政治家は時機を捉えて着実に基本法改正を行いながら現実
路線を歩んでいた。他方日本はどうか?ということになるが、何度か西ドイツと同
様の憲法改正のチャンスがあったと言われている。1回目は1950年に起こった
朝鮮戦争の時である。朝鮮戦争が勃発すると、マッカーサー元帥は、急遽日本政府
に7万5000人の警察予備隊(現在の自衛隊の前身)を創設するように命じまし
た。この時が改正の好機だったのである。
> もう一つはこれと時間的に近接するが1951年9月にサンフランシスコ講和会
議が開催され、日本は48カ国と平和条約を、アメリカと日米安全保障条約を締結
し、日本が独立を回復しました。国防が国の独立の基本であるとするならば、吉田
茂を初めとする当時の政治家はこの点を当然考えるべきであったとされている。
> またこの時は西ドイツは占領軍下にあり、基本法改正はまだまだ先のことでした、
もし仮に先ほどの改正西ドイツの改正が先に行われていれば、日本の政治家の動き
方が変わっていたかもしれないと思ってしまうのは私だけか。
>5 現在の9条改正問題
> いずれにせよ残念ながら日本における憲法9条改正問題の論争は、リアリティー
のある問題として、すなわちドイツ基本法第87a条や第12a条のように国家権力を拘
束する基本法としての憲法の特質に沿った現実的な議論がなされているとは思えな
い状況である。実際軍事力の行使という面では既成事実ばかりが先行している。日
本国憲法による制限は今や専守防衛という点のみかも知れない状況である。軍事力
行使に関する立法府の関与の方法も憲法には何の定めもない。このように国家権力
の行使の一つである軍事力の行使の制限についてみるとドイツ基本法第87a(2)
(3)(4)と比較するのもおこがましいほど何も規定していないという状況である。
先に見た西ドイツの基本法改正状況と比較すると全く地に足がついた十分な議論が
行われていない段階であって、国民投票に付するのは時期尚早ではないかと思える
のである。少なくとも私はドイツのようなリアリティーのある改正論でない限り真
面目に憲法改正の議論をする気にならない。
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