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2019年03月28日 [法律]

残価設定支払い型クレジット(残クレ)の危険性

 1 本日、実際に行われた残価支払い型クレジット(以下単に「残クレ」といいます)契約書を見せ
てもらいました。
  内容としては2019年1月25日、平成31年式のスズキのスペーシアという車をクレジット
を利用して購入されています。
  支払回数は全85回払い(7年+1ヶ月払い)で最終回の支払日は2026年4月7日で、残価
として35万円と設定されています。
2 本件における残クレ契約の概要
購入総額が判らないので計算しやすいように119万円と仮定します。また買主を甲さんと呼び
  ます。クレジット会社を乙会社とします。
そして1記載の通りこの契約は甲さんは残価を35万円と設定し乙会社の承認を受けています。
   但し「残価」という言葉を使っていますが、別にその車に最終支払期限にそれだけの価値が残
   っているという意味での価値ではなく、単に最終回支払額を「残価とおぼしき(そう考えたい)
   額に設定してもいいですよ」という支払金額の設定に過ぎません。実際、契約書には「最終回
   支払金額 35万円」と書いてあるだけです。この点は後ほど再述します。すなわち本件では
   総額119万円のうち84万円を毎月1万円ずつ84回(7年間)分割払いし、最終回(202
   6年4月7日)の85回目の支払額を35万円とする特殊な支払分割契約書に過ぎないのです。
   今回実際の契約書を見せてもらってこの点がよく分かりました。
3 契約書の分析
この最終支払回の35万円の設定については契約書第18条第1項に定めてあります。どう書
  いてあるかというと「甲は乙が承認した場合は、最終回支払金を乙が定める自動車の残価に見合
  う金額に設定することができます」と規定しています。
この意味は単に最終支払額を35万円という今までの返済月額(1万円)とは異なる大きい支
  払額に設定できるというものに過ぎません。今まで月額1万円だったのが最後だけ35万円なの
  です。皆さんお感じの通り異常な契約です。この異常さだけからも判るように、利用客は将来(7
  年後)厳しい債務支払問題に直面します。短期的には月額1万円で欲しい車をゲットできたとい
  う喜びはあるのかもしれませんが、長期的に見れば特にメリットがあるものではなく、むしろ将
  来の苦しみを確実に設定したようなものです。
利用客は残価額で乙会社が引き取ってくれるはずと言われるのかもしれません。しかし、契約
  書には「残価に見合うと考える金額を最終の支払額にしていいよ」と書いてあるだけで、将来下
  取りを35万円で行いますという約束(法的には下取り予約契約という)はこの契約書の何処にも
  記載されていないのです。せいぜい「35万円を基準にして下取っていただければ良いかなと思
  っています」という利用客の願望を、「そうなると良いですね」とクレジット会社が頷いた程度
  にしか過ぎず、この設定額は願望とか目安に過ぎないのです(これが条文上「見合う」という表現
  になるのだと考えています)。すなわち第18条第1項はあくまでも最終回の支払金額について
  『我々(クレジット会社)の了解のうえ「下取り価格としてこれくらいはあって欲しいという貴方
  の希望額を最終回支払金額に設定しても良いですよ。」と言っているのです。そうするとその裏
  には「貴方が下取りにも出さないときにはその設定した額を全額支払ってもらいますよ」 』と言
  うことが書いてあると言うことにもなるのです。
4 甲さんの将来
@以上を前提に本件契約に即して甲さんの将来がどうなるかをご説明しましょう。
 購入から7年目の2026年2月になりました。最終支払月まであと2ヶ月です。契約書第
   18条第2項には「この車を引き取ってもらいたければ最終回支払日の2ヶ月前までに自動車
   を引き渡すことを申出した場合」と書いてあります。そこで甲さんは2ヶ月前の2026年2
   月6日にこの申出をしました。因みにこの申出を契約書で決められたとおり行わないとそもそ
   も引き取ってくれとは言えなくなる危険性があります。それが契約です。
そして、この車の評価はどうなるのかと言えば契約書第18条第2項には「第4条第2項に
   基づく評価額をもって引き取る」と定めてあります。そこでこの第4条第2項を見てみると 
  「当該商品等(車両のこと)の公正・妥当な評価額による」とされています。しかし一般人には
   何が公正・妥当な評価額かの判断・証明はできませんので結局乙会社の「言い値」に従わざる
   を得ないと言うことになります。したがってこの「言い値」と最初に設定した「残価」が齟齬
   するのはいわば当然なことになろうかと思います。後日「そんな都合の良い価格になるわけな
   いですよね」と一笑に付されて終わりになりかねません。そしてそんなことになるのに備えて
   第18条第2項は「過不足金が生じた場合には、甲・乙間で直ちに精算するものとする」と規
   定して清算義務を謳っているのです。
したがって仮に本件で甲さんが購入した車が公正妥当な評価額として仮に20万円と評価さ
   れた場合には、車を渡した上に15万円を支払わなければならないことになるのです。これが
   清算義務の意味です。
Aこういう状況になると甲さんは35万円払ってでもこのまま車に乗り続ける選択をする場合も
   あるかもしれません(もう7年も乗っていますが)。クレジット会社はそういう選択がありうる
   ことを予め想定して最初からサービス(罠)を準備しています。すなわち、その時にまたクレ
   ジット会社に利益をもたらす規定が準備されているのです。契約書第18条第3項がそれです。
    クレジット会社はこれを「再分割払契約(特約)」と命名しています。これは残価として設定
   した最終支払額35万円を更に分割して支払うことができると言うものです。このクレジット
   を組むにはまた相当の手数料や金利が載ってくることになります。したがって利用客はまた損
   をし、クレジット会社は儲かることになります。しかも最初の119万円の85回分割のクレ
   ジット手数料はすでに取得している上にまた35万円について手数料を取るというわけです。
  「貴方(利用客)が変な分割方法を選んだためにこうなったのですから再分割には手数料をいただ
   きます」と言ったスタンスではないかと思われます。
なお、サンプルの関係上、ここではクレジット会社を念頭に分析していますが、銀行の残価
   設定型のカーローン(融資)も同じです。ここまで分析・検討の後、ネットで同様のサービスの
   状況を見て驚いたのですが「こんな場合、またお貸ししますので安心してください」みたいな
   フレーズを銀行系は平気に宣伝文句として謳っているのです。馬鹿にしているとしか思えませ
   ん。
 5 残価設定型契約に適した人
私が知るところ、車の下取りについては、下取り側はなるべく廉価で下取りしようとすると聞
   いています。特にディ−ラー系はその傾向が強いと聞いています。中古車の個別の特性を観察
   できるだけの査定力や販売力がないからかもしれません。そのほか新車販売で値切られるから、
   利益を下取り車で取ろうとすると言うことも言われています。しかし利用客からすると、なる
   べく高く下取りしてもらった方が新車買い換え費用の足しになったりと経済的にメリットが高
   いのは当然です。しかし本件のような残価設定型支払契約で車をゲットすると短期的には得し
   たような気がするのかもしれませんが、下取り時に高く買ってもらう権利・利益を最初のゲッ
   ト時からドブに捨てているようなものです。どうしてかというと支払最終回間際になってこの
   契約を設定した人が、購入先以外の中古車会社に査定を求めて動き回るということは想定しが
   たいからです。誤解とは言えこういう行動になろうかと思います。そこで結局このタイプの契
   約をしても構わない人というのは、どういう人であろうかと考えてみました。そうすると、そ
   の最終支払時期には下取り交渉する時間もなくて、しかも費用を払ってでも車を手放さなけれ
   ばならないような人(ex海外赴任する富裕サラリーマン)と言うことになると思われます。かな
   り限定的な場合に限られます。
6 あるべき姿
そうするとどうすべきか?以下、正論になってしまいますが、最もお得な車の購入の方法に
   ついては、良い品質の車を、自分の支払可能額の範囲内でなるべくお安く手に入れること。そ
   してその車に丁寧に乗って、下取り額を少しでもよくする努力をし、その努力を理解して下取
   り査定で少しでも高くつけてくれる業者を探すこと、が最善の道と言うことになります。
逆説的ですが、もしこういう業者を探せたとしたら残価設定型クレジットは一定の利用方法
   が出てきます。どういうことかというと、その探し出した目利きの車屋さんに「大事に乗って
   いたとしたら7年後にはどれくらいの下取り額になりましょうか」と言うことの意見を求め 
  「これくらいはあるかもしれない」という回答を参考に、最終回の支払額を決めるという方法で
   す。もっとも何かあったらその下取り価格にならない事は覚悟しなければなりません。

     参考資料   契約書(抄)
   ┌────────────────────────── ── ┐
│第18条(残価設定支払の最終回支払に関する特約) │
│1 甲は、乙が承認した場合は、最終回支払金を乙が定める自動車の残価に│
│見合う金額に設定することができます(以下「残価設定支払」という)。 │
│2 甲が残価設定支払を選択した場合において、甲が最終回支払日の2ヶ月│
│前までに乙に対して、最終回の支払のため自動車を乙に引き渡すことを申し │
│出たときは、乙は第4条第2項に基づく評価額をもって自動車を引き取り、 │
│過不足金が生じた場合は甲・乙間で直ちに清算するものとします。 │
│3 甲が残価設定支払を選択した場合において、最終回支払日の2ヶ月前ま │
│でに乙に対して、最終回支払額の再分割払いを申し出て、かつ別途乙が定め │
│る再分割払い選択に関する条件を満たしているときは、甲は再分割払いを選 │
│択できるものとします。この場合甲は乙所定の支払条件の変更に関する書面 │
│に必要事項を記入し、自署押印の上、最終回の直前の約定支払期日までに乙│
│に差し入れるものとします。また、甲は再分割支払期間については別途所定 │
│の分割手数料を支払うものとします。 │
└────────────────────────── ──┘
┌────────────────────── ─────┐
│ 第4条(商品等の引き取り及び評価・充当 │
│2 乙は、前第1項に基づき商品等を引き取った場合、当該商品等を公正妥 │
│当な評価額をもって、甲の債務の弁済として充当できるものとします。な │
│お、甲及び乙は、過不足が生じた場合、直ちにこれを清算するものとしま │
│す。 │
└─────────────────────── ────┘


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